福岡・けやき通り & 箱崎の小さな本屋

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「心のガーデニング」 2005年7月号 (文・沼田みより)

「私の好きな本屋さん」

ラッピングコーディネーター 沼田みより

 ブックス キューブリックの事を「我が家の書籍棚」と呼んでいる知人がいる。仕事のコースを工面しては、バイクで頻繁に通っているらしい。そう呼びたい理由を想像してみるのも楽しい事だ。まず考えられるのは・・・。

 15坪ほどの店内はいつも同じ空気が流れている。来店者が入れ替わるたびの挨拶や、ちょっとした世間話がその空気に溶け合っている。その中で、店主が本を整えている姿は、不思議とお客さんの中に溶けこんでいて探してしまうほどだ。本を選んでいるお客さんもどことなく静かな空間の協力者のようで、自分と同じ好みの本を読んでいる人と出会うと、すぐに友達になれそうな気さえしてくる。

 不思議なのはこの本屋さんにいると、元気がでてくるような気がするのだ。大型店舗ではたくさんの本から出会う楽しみがあるが、求めていないものも多いから、選んでいくエネルギーが時には切れてしまって、へとへとになってしまう。キューブリックでは、それどころか徐々に購買意欲が湧いてくる。気をつけないと、選んだ本が片手にどんどん重なってくる。その重さに気づき、途中、冷静に。と数冊を減らして、しかしまたレジの前で、うーんとうなる事になる。結果、予定外のものは「このところ頑張ってるからね,ご褒美に!」と、また散在してしまうのであった。「アーあまた買ってしまった。ここの店主は、きっと私と本の好みが同じなんだ。」と困ったように店内を見回しては嬉しくなるのは、私だけではないだろう。
 先日、いつものようにバイクで乗りつけた知人に店頭で出会った。彼女は今日もしっかりご満悦の様子で、ちょうどバイクのかごに、膨らんだキューブリックの袋を積んでいた。彼女の笑顔はバイクが動き始めてもまだ消えず、私まで嬉しくなって見送った。「我が家の書籍棚」であれば、気が向いた本を立ち読みすれば十分であろうに・・・きっとこの不思議な空気のせいだ。

 その不思議な空気の店の店主が、先日、我が家に新鮮な風をくれた。「田舎に引っ越してから,中一の息子が漫画づけで、がっかり。」と愚痴った私に、「これ、こないだ中学生が立ち読みしてたんですよ」と「Newton」という月刊誌を紹介してくれた。大人向けの科学誌ではあるが、グラフィカルな構成は、おそらく幼い子どもとも楽しめるだろう。「この本が、いつも気付いたら傍にあるような、さりげなくね、ポンと置いておくといいんじゃないでしょうか。ぼくの小さい頃は「暮らしの手帖」が傍にあった。今でも覚えているんです。」
 言いつけ通りにした。テレビをつけず、子どもが本を手にした時、何だかワクワクした。それから、「頭蓋骨は語る」という特集に見入った息子は、哺乳類の骨標本をしばらく眺め父親を呼んだ。なにかしら話が弾んでいる様子だ。父親も夢中になって「相対性理論をもっと理解したい」と言い出した。
 私はといえば「夜空の不思議Q&A」宇宙には形があるのだろうか?という問いかけに答えた頁で立ち止まった。
 宇宙に形だなんて考えた事もなかった。もっともっと。という想いがこみ上げてきた。子どもにかえって、もっと なぜ?という気持ちを取り戻したい。不思議な事をたくさん感じたい。そう思った。

 「不思議な店主の書籍棚」。これからも不思議な空気に包まれて、本との出合いを楽しむ事にしよう。