福岡・けやき通り & 箱崎の小さな本屋

Independent Small Bookstore in Fukuoka since 2001

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「毎日新聞」 2002年11月14日

街百話「書店」

 おしゃれなブティックや美容室が並ぶ福岡市中央区の「けやき通り」に、50平方メートルたらずの小さな書店がある。大井実さん(41)の夢が詰まった「キューブリック」だ。店内には、売れ筋のコミックや学習参考書のたぐいはない。今日も商品が入ったダンボールが店に届く。それを開くたびに心が躍る。「今日はどんな本が届いているだろう」
 書店の経営とは縁がなかった。大学卒業後、東京でイベント関連の会社に勤めた。時代はバブル。ファッションショーや美術展に、何億円というスポンサー料が集まった。「この時代は何か変だと思えて仕方なかったんです。」身を引いて、世の中を見たくなった。
 29歳。会社を退職してイタリアに渡った。ローマ、フィレンツェ・・・・。1年間、歴史や建築がとけ込んだ街や人々と巡り会った。通りの店は個性がいっぱいだった。みな、自分の足で立っていると、実感した。

 帰国後、以前とは逆に、地域とかかわる小イベントに携わった。さらに漠然と考えた。「身近なところから文化を発信できる仕事がしたい」。子どものころ、冷房の利いた本屋で立ち読みをした。本を開いた瞬間の、インクと紙の匂い。「次は何が?」と操るページ。そして読んだ本のすべてが、自分に生きるための栄養を与えてくれた。あの空間が好きだった。
 大型書店が次々に開店する福岡。時代に逆行しても、小さな店ならではの良さがあるはずだ。「よく選んだ本を置けば、お客さんがつまらない本を探さずに済む。生活を楽しみたい大人のための本屋をひらこう」。1年半前、地元・福岡で店を開いた。映画監督の故スタンリー・キューブリックの名が店名の由来。「子供が『大人になったら絶対来たい』と思う店にしたい」が夢だ。
 「経営が大変でしょう」と言われることもある。でも「これほど面白い仕事はない」と答える。「お客さんが求めて買い、新しい本が入る。書店は常に変わる生き物です」。店内は小学校の図書館をイメージして作った。大人がかつてわくわくしながらページを開いた場所だ。もう一度、活字に接する楽しさを思い出してほしい。本屋は本と人の出会いを作る仕事だと信じているから