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第4回「夏の夜」

 暑い。梅雨も明けぬうちから、もう真夏日連発。加えて湿度はしっかり残っているのだから、ちょっとたまらない。そんなわけで、今回はサラッとしたお祭りを紹介したいと思います。
 祭りといえば、先日まで博多の町は山笠一色。今年も、ふんどし姿の男衆達が町を駆け抜けた。勇壮である。勇壮ではあるがしかし、サラリな感じとはかけ離れている。追い山の時にこそ相応しい男達の熱気は、平日の昼間などに出くわすと少々もてあましてしまう。考えてみれば、大の男がふんどし姿でやる気全開なのだから、サラリ感とは真逆のベクトル。
こちらは素直に熱さを楽しみたい。
 また箱崎の祭りといえば秋の大祭、放生会。こちらも素晴らしい祭りだが、見世物小屋などの醸し出す空気感はどちらかといえば情念、粘着系。魅惑的であっても、やはりサラリとは対極の世界だろう。
 そこで紹介したいのが、箱崎の「人形飾り」というお祭りである。箱崎の網屋町というところに天神様を祀った一画がある。小さな祠がいくつか並び、観音堂もある和やかな空間だ。
 この辺りは名前からも察せられるように、古くは漁師町だったそうで、なるほど家並みや鯨塚などに、その面影を見ることができる。人形飾りは、その天神様の境内に人形を乗せた箱庭を飾り、子供達の安全を祈願する小さな祭り。夏の夜にサラリと夢の世界へいざなってくれる。
人形飾り.JPGのサムネール画像のサムネール画像
 初めて人形飾りを見たのは一昨年の夏。家にいてもあんまり暑いので、小さな張り紙のお報せに多少の興味を持っていた、この祭りにふらふらと出かけてみた。
 天神様に近づくにつれ、普段の夜は真っ暗な道がボウッと明るい。境内はもちろん周囲の民家にも箱庭が飾られているためだ。静かに照らされた軒先で、子供達がお線香を供え、お参りしている情景がなんともいえず美しい。
 境内にはこれといった露天もないが、みな楽しそうに話しこんでいる。見知った顔もちらほら見えて、ほとんどが地元の人であろう。子供達のイマジネーションを詰め込んだ箱庭が夏の夜に浮かび上がるように並んでいる。 そんななか、子供達の上気した声の響きを聞いているうち自然とかつての夏が甦ってくる。そうして過去に想いをはせながら、一方では眼に映るもの全てが、ことごとくクリアーに感じられるようでもあり、その落差に夢を見る思いがした。
 ざわめきと静けさ、過去と現在、永遠と一瞬、そんな相反するものを矛盾無く捉えられた瞬間だったろう。
 思えば、夏は全てがフィルターを通さない強烈な季節である。それは眩暈を覚えるほどの体験となり、時に現実感を吹きとばす。そうして刻まれた記憶は、またいつかの夏に不意に顔を出し、さらなる記憶として積み重なる。耐えられない昼間の暑さも、不意の夕立も切にいとおしく感じられる夜だった。
 日々、大げさな刺激に鈍った感覚が、このような静かなお祭りに反応したのは不思議な気がする。しかし、地域の人しか知らないようなお祭りだがらこそのピュアな想いは、存外芯が強いのかもしれない。昨日天神様の横にある、おきゅうと屋さんで買い物をしたら「あのお祭りは500年ずっと続いとうとよ」と誇らしげに話してくれた。そう、もうじき人形飾りの季節、本当の夏が来る。
「箱崎人形飾り」7月23・24日 詳細は箱崎周辺イベント情報参照