第8回 「終わりと始まり」
四十を越したからというわけでもないだろうが、なんとなくいろいろな事が一区切り、あるいはぐるりと一周したように感じることが増えた。
そういえば、この町に住み始めてからもうすぐ10年、これも1つの区切りといえるだろう。
これまで彼方此方をふらふらして来た自分としては、一つ処で10年というのはかなり長い。
長かったようにもあっという間であったようにも思えるが、引っ越して来た頃の事を考えると遥か昔の事のようで、やはり長い時間が経ったのだと思う。
町に本屋がない事を嘆いていた当時、キューブリックの箱崎店がオープンすると知って驚いた事なども思い出しながら、そうだ、と久しぶりにこのコラムを読み返してみた。
最初のコラムは2009年の春。そこから懐かしく読み返しながら、冒頭に書いた「一区切り、一周した感じ」の理由が少しわかった気がした。
例えば第2回目では、新しい人の流れについて書いている。
ちょうど自分が住み始めてからしばらくは、同世代や同業種のような人達が身の回りに増えて、少し賑やかしい時期であった。だけど、そんな人達もいつの間にかまた次の場所へと移っていき、現在はまた越して来たときと同じような素軽な状況に戻っている。
それから、当時は移転計画の初期段階だった九大箱崎キャンパスは、昨年から解体工事が本格化。移転といいつつ具体的にはほとんど変わらぬ状態であったが、いよいよもって完全移転へ急ピッチの様相である。その他、越して来たときには既に老舗の風格満点、永遠に存在しそうに思える程町に馴染んでいた店もいくつか姿を消していったし、小さな商店街のお店の多くはマンションや駐車場に姿を変えた。
それとなく過ぎていった日々の中で、いつの間にか変わっていたもの事が、くっきりと見え始めた時期なのかもしれない。もちろん日本中のいろんな場所でそんな変化は起こっているのだろうが、町のシンボルともいえる広大な九大箱崎キャンパスの移転と共にあったこの町の10年は、その変化の度合いが鮮烈だったように思う。
そして、その鮮烈さは移転終了予定までのこの数年でピークを迎えるだろう。
このコラムでも触れてきたが、長い歴史を重ねた九大のキャンパス内には様々な建物や植物がわんさかとあり、それは計画的に設計されたようには到底思えぬ、かなりの混沌状態。
日本中に整理された均一的な景観が増えていくなか、個人や自然の営みが積み重なって生まれてきたような眺めには、なんともこころ安らぐものがあった。
だが、そんな眺めの多くは、歴史的価値が高いとされそうな一部の近代建築を除き、近いうちに消失していく運命にある。
最近はキャンパス内を散歩していても、なんとも悲しいような気分になってしまう。
そんなある日、すでに更地となった場所でボーっとしていると、急に昔ここが海辺だった事を思い出した。
掘り返された砂っぽい土壌に、ぽつぽつと取り残された松の木が数本。
そう、ほんの百数十年前までこの辺りは砂浜だったのだ。
元に戻るだけかもしれない、、、
そう思うと、いろいろな事が違った様相で見えてきた。
そんななか、個人的に関わりの深かった旧工学部機械工場という建物も近々閉館式を行い、取り壊しを向かえる予定である。それに伴い、これまでこの場所を舞台に様々な試みを行ってきた九州大学総合研究博物館と共に展示イベントを行うことになった。
(※九大博物館とのこれまでの取り組みについてはコチラ→ qulteのホームページ http://www.qulte73.com/)
今回は、この春箱崎にオープンを予定している「spital」と話し合いながら、今後への新しい展開も含めた計画を進めている。
イベントのタイトルは「終わりと始まり」。
何にでも寿命はあるしいつかは終わりがくるものだが、最後まで視線を向けてくれる存在があるならば、それは悲しむだけのことではないように思う。
積層した想いは、また次に始まる何かに引き継がれていくだろう。
あらためて町を見れば、空き店舗になった場所のいくつかで新しいお店がオープンしている。
このコラムで最初に紹介した老舗のやおきパンは突然の新製品ラッシュでますます元気に営業中であり、先日はお孫さんが焼いたという試作のパンを頂戴した。
そこかしこでいろいろな事が巡っていく。
そんな次への予感を見つけながら、もうしばらくはこの町で生活していこうと思う。
大鶴
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立派なタイトルを頂戴しているこのコラムだが、前回更新はなんと2012年の夏。。。
知らない人から見れば、このkengoなる人のライフはどうなったのか?
なんか怪しい感じの人だし、まかりならない袋小路にはまりこんで遁走でもしたんじゃね?
いやいや最早ライフそのものが停止してしまったのではないかしらん、、、などと思われていたかもしれない。
確かに昨年は厄年で体調を崩しがちではあったが、変わらずここ箱崎の町で健全なライフを満喫しております。念のため。