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「はかた版元新聞」 2002年2月1日号 VOL.4

特集 地方出版と町の本屋さん

「不況で 良かった!? 2001年発、町の本屋の旅」

 ウチは去年の春にオープンしたのですが、店の名前は映画「2001年宇宙の旅」に因んでつけました。2001年から本の旅を始めるといった意味を込めたかったからです。
 ボクは大学を出てすぐ、東京のファッション関係の財団でイベンターとし働いていたんです。いわゆるバブルの最盛期でした。イギリスの連中と合同で大きなファッションショーを開催するという企画があって、とても刺激的なスタートでした。その後、二十代の終わりにイタリア語を習いにイタリアに行ったんですが、そこで在伊三十年の日本の彫刻家と出会い、その後彼の展覧会の手伝いを三年半やってました。さらにその時の縁で、帰国後は大阪で音楽会や展覧会を企画したり地域の文化新聞を発行したりしてたんです。ですがその頃から、スポンサーに左右されがちなイベントの仕事に興味を失いつつあって、ある種畑仕事にも似た本屋の地道な部分に惹かれていました。本に対する幼い頃からの思い入れもありましたし、今でも「本屋は棚を耕す」仕事だと思っています。 

 好きな出版社は晶文社、平凡社、筑摩、河出あたりかな。本屋では鳥取にある定有堂です。ここには奈良さんという方がおられて、遊びに行った際にはいろいろ励まして頂いたんですが、お店自体に理想的なものを感じました。ここでは「人文書を通じた友だちづくり」をキャッチフレーズに講演会などを開いて、本屋が地域のコミュニケーション空間にもなっている。そこがすごいと思ったんです。
 友人からは、ボクが本屋をやりたいというと、たいがい「儲からないんじゃない?」と言われました。また、福岡の某老舗書店に勉強のためしばらくアルバイトで働かせてもらおうとしたんですが、そこの店長(とても親切な方で、今でも感謝しています)からも「店を始めたとしても長続きしないだろうからやめておけ」と忠告されました。
 それでも、本当はいきなり店を開きたいとおもっていたんですが、とにかくその本屋で働かせてもらって、仕事が終わってから自分の店の物件探しに走り回るという日々でした。 物件探しも取次との契約も結構大変でしたが、よく考えるとその方が甘い夢を見ずによかったのかもしれません。
 うちは開店時の在庫をいわゆる取次におまかせのセット品ではなく、ほぼ全部を自分で選書したんです。おかげで最初は時間もかかりましたし、資金的にも厳しかったですが、その後は比較的楽にやれてると思います。
自分の選書で品揃えをしていて大変なのは、とにかくお客さんが飽きないように、限られた棚の中で、アイテムに変化をつけていかなければならないことです。
 ウチは料理・インテリアなどの書籍や女性雑誌はやはり動きますが、例えばサラリーマン層なんかにも開かれた品揃えをやってみたいと思ってるんです。間口の狭い、趣味的・自己満足的な本屋はイヤでしたし、本から遠ざかっていた人なんかが、もう一度本と出会う入口になるような本屋を目指しています。小さい店ならではのフットワークを生かした街の本屋のスタンスで行きたいんです。
 そんな街の本屋として、やはり「客注品」は生命線ですが、小さな本屋だからこそできるキメ細かくねばり強い対応には自信があります。取次のシステムを利用して、インターネットで注文して店で受け取るといったこともできますし、取り寄せ品もほぼ一週間から十日以内に入手できます。昨秋からは洋書の取り寄せも始めました。いろんな策を講じて、とにかくご注文の品を探し出し、一刻も早く入手する努力は怠りません。そこは是非アピールしたいところですね。
 大書店の出店が盛んですが、大きければいいということではない。現に他の業種では小さなセレクトショップのようなものが人気を集めていますしね。例えばいいレコード店や喫茶店、本屋がある街ってのはいい街なんじゃないかというのがボクの持論なんです。
 学生時代を過ごした京都もまた、そういう店を中心としてコミュニティが成立していた。そんな小さいながらも個性的な店の集まりが、いい街の雰囲気を作り出していくんだと思うんです。書店業界では今、小さな店の廃業が続いていますが、版元も、読者や書店の小さなニーズを切り捨てにやっていくべきだと思いますね。
 「なぜこの不況時に本屋を?」と不思議がられますが、先行きが不透明で変化の激しい時代だからこそ、明日へのヒントを得るために、これからますます本が必要とされるのではないかと思います。 そういったニーズに応えていくためにも、一部の「本好き」を満足させるに終わらない、「究極の街の本屋(!)」を目指したいですね。