「こころのガーデニング」 2005年6月 No.73
特集 ちょっとすてきな本屋さん ブックスキューブリック
福岡市中央区赤坂の「ブックスキューブリック」は小さい間口ながらもとても魅力的な本屋さん。やはり棚に並んだ本の一冊一冊に店主の愛情が感じられるせいだろう。どの一冊もいいかげんに選ばれた本はないと感じさせるオーラをもっている。
とくに私がすてきだと感じるのは若者の来店が多いということ。ゆっくり本を手にとって、本を選ぶ時間を愉しんでいる。本に親しむ若者の姿を間近でみるのはとてもうれしいことだ。
大井実店主も、地域密着型の本屋にぜひしたかったと熱く語って、これはただ者ではないと感じさせる風貌の持主。赤坂といえば、「大人の遠足」以来お世話になっているペンタグラムがすぐ近く。今回はそこのメンバーの一人竜田清子さんにキューブリック近辺の絵地図と文章をお願いした。
丁寧に耕された畝のような本棚
私が働いている店「バッ-カフェペンタグラム」から300メートルほど離れた所に、2年前、15坪の小さな、“畑地”を見つけた。丁寧に耕された畝のいろんな作物を、わくわく感に浸りつつ眺め歩き回るうちに、作物が話しかけてくるということを発見。不思議な引力をもって。だからいつも何かしらの作物を手にとっている。軽すぎる財布をバッグにしまいながら、
「ああ、また、買うつもりじゃない本まで買っちゃった・・・。」
とつぶやく始末だ。
畑地を耕すように、本棚を耕す本屋「ブックスキューブリック」(福岡市中央区赤坂2丁目1-12)の店主大井実さんは、本のおもしろさを、来てくれた人に伝えられたらと、考え考え本棚の品揃えをする。
カウンターに一番近い棚の前に立った。有名だから名前ぐらいは知っているけれど、例えば『白洲正子の贈り物』を開くと、「へぇ、こんなひとなんだぁ」と発見する。その隣に視線を動かすと、夫の『白洲次郎の流儀』がある。同じ棚で目を泳がせていると、表紙カバーがしゃれた植草甚一の本に視線が落ちる。ここで視野が割れて、『未来への地図』星野道夫の本に突き当たる。でもここで止まらずに、「ああ、そうか、池波正太郎は死んで15年になるのか」とちょっと感慨深く、kawadeムックの『池波正太郎没後15年』を手に取ってみる。もう、こうなるとこの棚は総なめだ。『澁澤龍彦事典』『司馬遼太郎が愛した風景』『70s寺山修司』『コクトー1936年の日本を歩く』『ピエールとクロエ』-ああ、いつのまにか自分の読書畑のフランス図書にたどり着いたよ。
大きな書店や専門書店とちがって、15坪の小さな空間は本棚から本棚へとうろついても、数分あれば一巡できる。小説、建築、アート、日本語、詩集、住まい、絵本、児童書、音楽-、いってみれば、棚全体は雑誌の特集目次を開いたような印象である。この小さな本屋の棚は、その見かけによらず、とんでもなく大きくて豊かなものが詰まっている。
ちなみに店名のキューブリックは映画「2001年宇宙の旅」を監督したスタンリー・キューブリックに由来。わが町の本屋さんで時々こうして本の旅をさせてもらう。
(バッ-カフェペンタグラムで働く竜田清子)
竜田清子さんは、本年11月19日に癌のためお亡くなりになりました。この文章が外に発表したものではほとんど最後のものにあたるということを関係の方からうかがいました。心よりご冥福をお祈りいたします。