「朝日新聞」 2006年11月25日 ひと・交差点
ブックオカ2006実行委員長 大井 実さん(45)
けやき通り古本市活況
秋晴れが広がった今月4日朝、色づき始めた街路樹が続く福岡市中央区の「けやき通り」に、古本を詰めたダンボール箱がずらりと並んだ。全部で81箱。通りに面した21店舗の軒先に800メートル近く続き、20~30代の若者を中心とした数十人が古本をフリーマーケットのように思い思いに売りさばいた。通行人らが珍しそうに足を止め、夕方には売り切れる箱もあった。 福岡市で初開催されたイベント「BOOKUOKA(ブックオカ)2006」のひとコマ。実行委員長を務めたのが、同じ通りで本屋「ブックスキューブリック」を営む大井実さん(45)だ。 開催のきっかけは、地元出版社の知人らと飲んでいた時の会話だった。昨年東京で「不忍ブックストリートの一箱古本市」と銘打ったイベントがあり、「福岡でもやれないかな」と漏らした。その一言から半年足らずで開催にこぎつけた。 実行委員は大井さんら発起人3人に加え、書店、ラジオ局、タウン誌の本好きら総勢十数人に増えた。 けやき通りの隣の区域は九州一の繁華街、天神。東京資本や外資の進出が著しい。そんな街と少し雰囲気が違うのがけやき通りだ。天神のすぐそばなのに、地元の店主たちによる緩やかなネットワークが残る。大井さんは「このゾーンをもっと活性化できれば」と、アイデアを探していた。 イベント会社を辞め、本屋を開くほどの無類の本好き。01年4月、50平方メートルほどの店を始めた。「町の本屋さん」が消え、大型店が増えていく現状に違和感を覚えていた。開店前、周囲から「もう町の本屋は成立しえない。やめた方がいい」と忠告された。 「本好きは、書店を見て回って気に入った本に出会うのが楽しみ。大型店みたいに広い売り場があっても見て回れない。新刊本がすぐに店頭から消えるやり方も疑問だった」。だから、古本の販売をブックオカのメーンイベントに据えた。新刊書店だけでは本の魅力は伝わらないと思うからだ。 大井さんの店には個性的な雑誌や本が並ぶ。ベストセラーは少ない。店は、周囲の予想とは裏腹に開店6年目を迎えた。常連客も少なくない。 「若い世代は『活字離れ』と言われるけど、本当にそうだと思わない。だって、自分の好きな古本を売りたいという若者があんなに集まってにぎわったんだから」 大井さんには目標がある。大学生だった80年代前半、ニューアカデミズムが流行し、構造主義など難しい本を小脇に抱えて歩く学生がキャンパスにあふれた。「何が書いてあるか僕も周りも理解してませんでしたよ」。でも、その姿が当時はおしゃれだった。 「本を持つのが格好いい。そんな風潮が若い人たちに広がればな、って思うんです。イベントを通じ、街中に隠れている本好きをあぶり出したい」 ブックオカは来年も開くつもりだ。