「西日本新聞」2009/1/17朝刊
「混沌の時代にこそ本を」
こだわりのある品ぞろえで知られる福岡市中央区赤坂の書店「ブックスキューブリック」が、同市東区箱崎のJR箱崎駅そばに2店目をオープンさせた。世界的な金融不況が地方を襲い、本離れが叫ばれる中では冒険のようにも映るが、同店代表の大井実さん(47)は、どこ吹く風。「混沌の時代こそ本が必要」と、地域に根差した"街中の本屋さん"づくりに励んでいる。
「先のことなんて何も考えていないですよ。箱崎を見ていて、店を開けたくなっただけ」
箱崎は大井さんが30年ほど前、中学・高校時代を過ごした街。「九大と筥崎宮が遊び場だった」というが、最近は中南米のTシャツを売る店や、商店街の空き店舗で和食屋を始める若者が登場。「古さと新しさが混在し、面白くなってきた。都心に近いのに物価が安いのも魅力」と話す。
2店目のオープンは昨年10月中旬。開業医だった妻の実家の土地にマンションを建てた際、1・2階部分に約2千万円をかけてつくった。白壁の明るい空間が広がる1階には、ビジネスや文学、芸術、絵本などのジャンルの本や雑誌約1万冊が並ぶ。らせん階段で上る2階には、「本好きが集まれるように」カフェと地域の表現者向けのイベントスペース、料理教室用のキッチンを設けた。ジャスやブルースがゆったりと流れている。
同店の売りは「本棚」。本の流通業者が送ってくる新刊を並べるだけになりがちな中、新刊情報誌に目を通し、時代性や普遍性のある作品をバランスよく注文するように心掛けている。頼りは、1号店開店の(2001年)以降、蓄積している販売データと時代感覚。「小さな総合書店」が目標だ。
本の売れ行きは「まだまだ」と苦笑いするものも「昨年は『カラマーゾの兄弟』の新訳が売れた。不安な時代こそ本は力になるんです。」
今後のテーマは「書店と街のつながりをつくること」。京都の町家プロデューサーや彫刻家のマネジャーなどの異色の職歴を持つ大井さんは2006年から毎秋、古本市やトークイベント「BOOKUOKA」(ブックオカ)を開いている。「本が媒体となり、街にコミュニケーションが生まれている」と感じている。
31日まで、東区近辺を写した「箱崎・馬出レトロ写真展」を開催中。