「FORNET」 2004年5月号
噂の売れる店 繁盛の秘訣は?
「厳しい書店業界で着々と売り上げを伸ばす大人向けの本屋 ブックスキューブリック」
ところ変わって福岡都心、赤坂のけやき通り沿いにある小さな書店「ブックスキューブリック」も、大型書店や老舗書店が軒並み業績を悪化させる中、開業以来、売上げを前年比10%ずつ伸ばしている密かな繁盛店だ。このわずか十三坪の店の実力は、天神の真ん中にある、同店の十倍を下らない規模の大型書店の販売冊数が百冊だった地方誌を、50冊も売っていることからも伺い知れようというもの。
オーナーの大井実さんが考える店のテーマは、一言で言えば「大人向けの本屋」だという。それを繁華街の大型書店ではなく、個人が営む町の本屋という位置付けで軌道に乗せるにはどうしたらいいのか。従来的に町の書店は、その地域の住民のすべて、つまり老若男女に対する品揃えをするのが当たり前だった。そのため、浅く広い品揃え、売れ筋依存という、没個性のスタイルを取らざるを得なかった。
そうなると、90年代に出店ラッシュを迎えたロードサイドの大型書店展開がそうだったように、売り場面積競争にしのぎを削らねばならなくなる。その結果として今、生じているのが、書店の取扱商品の多様化だ。郊外型大型店ともなると、CDやDVD 、ゲームソフトなどが売り場の半分を占める状態が、半ば常識化している。中にはゲームセンターが併設されている書店もある。
これが、浅く広い品揃えの行き着く先かもしれなが、ややもすると子供が店内を走り回るこうしたスタイルでは、大人がゆっくり本を選ぶ愉しみを提供できなくなる。
これに対してキューブリックは、大人にコンセプトを絞ったセレクトショップのような空間を提供することで支持を集めているようだ。「すべてのジャンルをまんべんなく取り扱う必要はない。」(大井さん)という着想で、レディコミや少年誌は置かず、また、程近い天神の大型書店へ行けばあるような本もあまり扱わない。「自分が楽しめるジャンル」(大井さん)を念頭に、専門家し過ぎず、町の本屋を名乗れるバランス感覚を大切にしているという。 大井さんはこうも言う。「店主が心を躍らせるような部分がないと、店の客層に、こういう本が欲しかった、と思わせるようないい本は発掘できない。本屋はそういう本と人との出会いの場でもあるんです。それを本屋という空間が好きな人たちにアピールしたかったんです。」
今、本はネットで探したほうが手っ取り早い時代だ。だからこそ特に町の小さな本屋は、客層を絞り込み、センスを提供しなければならなくなっているようである。