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木下斉さんトークショーレポート(10月20日@箱崎店)

10月20日に箱崎店で開催した木下斉さんのトークショーの様子を、参加者の方がまとめてくださいましたのでこちらに掲載させていただきます。
(イベントページはこちら

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『地方創生大全』発売記念 木下斉さんトークショー

日 時:2016年10月20日(木)19:00~21:20
会 場:カフェ&ギャラリー・キューブリック
出 演:木下斉
聞き手:大井実(ブックスキューブリック)

(作成:西山健太郎さん)

 

 

講演概要:

■「できる」人の足を引っ張る「できない」人たち

――まずは、『地方創生大全』出版の経緯をご説明いただけますか?

木下 東洋経済オンラインで連載中の「地方創生のリアル」の総括版ですが、ネットを見る習慣がない“偉い”人たちにも読んでもらいたいと思い、書籍として出版しました。

――木下さんはすでに『まちづくりデッドライン』『稼ぐまちが地方を変える』『まちで闘う方法論』などご自身が実践された経験を理論化・体系化された著書を出版されています。

木下 都合の悪い人には「過激すぎる」と言われますが。ありのままの実態を取り上げているだけで、作為はありません。いわゆる「まちづくり事業」には、権力を握る年配者が、自分にとって都合の悪い施策をできなくすることができるという、いやらしさが常につきまといます。地元の議員や有力者だけでなく、行政サイドが許認可権を行使して、先鋭的な民間事業を進められないようにするというケースもあります。

――そういった人たちに邪魔されない対策が必要ということですね。

木下 そのとおりです。地方活性化事業というのは本来シンプルであるべきなのですが、関わる人々によって複雑化されているという実態があります。どこからも反対の声が上がらない、いわば「合意が形成されるための計画」をつくることに重きが置かれていて、本当にその地域にとって必要な事業ができていないことが多く、とても残念なことだと思います。

――まさに護送船団方式に慣れている日本ならではの課題といえるかもしれませんね。

木下 「新しいものを排除するほど衰退する」という自明の理が浸透しておらず、「既存のルールや仕組みを破壊しないメリット」を先に考えてしまうんですよね。本当に地域に必要な事業をしようとするなら「すりあわせ」は不要です。行政が真剣にやるべきことは、「利害関係の調整」ではなく、「先鋭的な取り組みを妨害しようとする人や仕組みの排除」だと思っています。

――よく言われる「地域一丸となって」というのは現実には難しいということでしょうか?

木下 いろいろな人や団体がいるんですから、初めから一丸となるのは無理ですよ。新しい切り口で始めた先進的な取り組みが地域全体をけん引して、結果が出たときには地域が一丸になっている・・・というのが成功事例の実態だと思います。

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■公共事業のあやうさ

――木下さんは、公共事業の失敗例を「墓標」と呼んで、レポートされていますね。

木下 公共事業の多くが、事業をやりっぱなしで、その成果や効果が分析されていないというのが大きな問題だと考えています。竣工当初は話題性も高く、全国から視察が相次ぎ、国の省庁の成功事例集に取り上げられた施設でも、年数が経つうちに維持費がかさみ、テナントも撤退するなどして損失を生むようになり、市民の貴重な税金を投入して支えている、というような「短期で成功、長期で失敗」の事例は枚挙にいとまがありません。さらに行政の世界では、2~4年という短い周期で人事異動が行われるので、事業の担当者がころころ変わって責任の所在がはっきりしなくなるというケースも多々あります。一瞬の成果が成功ではなく、成長と伸び悩みのサイクルを繰り返しながらも、破たんしないように永続していく仕組みをつくることが大事なのですが・・・。

――補助金の弊害についても触れられています。

木下 補助金行政は金と労力の無駄遣いを生みます。たとえば、創業支援と銘打って補助金やインキュベート施設などを提供する自治体は多いですが、本当に事業をやりたい人は役所の手を借りずに自力で何とかしてますよ。なまじっか役所から補助金をもらったばっかりに、書類の作成や事業の説明などの時間をとられて本業に手が回らない、という笑えない事例が出てくるわけです。プレミアム商品券だって、一部の地域や商店街でやるから効果があがるんです。新規客を呼び込むとか、売上げ全体の規模を上げるといった意味で。全国の自治体でプレミアム商品券が販売されましたが、券の印刷や販売するための仕組みづくりに相当の費用がかかったという話も聞いていて、売上げの3~4割しか地元に落ちていない、という試算も出ているほどです。

 

■行政に潜む様々な課題

――全国の自治体が地方創生事業として「地域資源の発掘」を掲げた取組みを行っています。

木下 自治体の「身勝手な押し付け」といえるような取組みが非常に多いですね。うちの街の特産品はこれだから買ってください、うちの街にはこういう名所があるから見に来てください・・・みたいな感じで、お客さんのニーズをまったく考えていないんです。

――確かに私自身も旅行先で「特産品」と銘打った商品を味わってみて、「あれっ?」と思った経験があります。

木下 特産品の商品開発や地域の魅力のブランド化にあたって、「計画を書いて金をもらっている人たち」がよく登場しますが、そうしたコンサルタントがよく使うのが「富裕層向け」というキーワードです。その言葉を発したコンサルには、その場で「富裕層の知り合いに電話をかけてみてください」「あなたが知っている富裕層のリストをください」と言ってみてください。「富裕層」という概念はあくまでイメージですから、その言葉に惑わされてはいけませんよね。

――行政の担い手が固定観念に縛られているような印象を受けますね。

木下 他地域の成功事例をそのまま真似しようとする人が実に多いですね。行政や地域がカスタマイズした施策を打つことが必要なのに、同じことを自分の地域でもしようとする。真似すべきは成功事例ではなくそのプロセスだということがわかっていません。また、固定観念という話でいうと、「人口減少=悪」という決めつける風潮がこの国にはあります。人口が増えても減っても問題視するのが日本という国で、かつて人口が増えた時期には「明るい家族計画」とかいって人口抑制策をとり、人口が減ってくると人口増加策をとる、という場当たり的な政策を国が主導して行っています。人口が減ったとしても生産性が変わらなければ、一人あたりの豊かさは上がるのです。都市部ではその機能を維持するためにある程度の人口の維持が必要でしょうが、第1次産業中心の町には当てはまらない。標準的な農業地域をみても、いまは兼業農家がほとんどで、農業だけで食べている人の割合は相当少ない。人口が減って担い手がなくなった農地を集約して少人数で大規模な農業経営をする方が生産性が上がるはずです。まちづくり事業の担い手には、固定観念を捨てて、現実に適合した独自の発想をもとに事業を構築、実行することが求められています。

 

■「稼げる」まちになるために

――成果指標の設定についても独自の見方をされていますね。

木下 よく、訪れた観光客の数を成果指標にしている自治体がありますが、それでは本当の成果は測れません。客数×単価=売上なのですから、客数ではなく売上に着目しないといけない。最近スペインのサンセバスチャンを訪れましたが、この街は「ヨーロッパの美食の都」として知られています。小さな町ですが、星つきのレストランが数多くあり、2、3泊の滞在では回りきれないくらいです。エンド価値を上げることで一次産品の価格を高めることができますし、雇用も生まれます。日本中に新鮮な魚介類をウリにしている地域はたくさんありますが、当地の食堂やレストランで提供されているのは決まって刺身と海鮮丼。刺身や海鮮丼でひとり1万円とか2万円とかとれませんよね。いかに付加価値をつけて提供するかが大事なのです。

――具体的にはどういった取組みが必要なのでしょうか?

木下 第3次産業についても第1次・第2次産業と同じで、研究開発と人材育成が大事だと考えます。これまでのような職人の技の継承に重きを置くようなやり方ではなく、徹底したR&D(※)をもとに特定の産業を強く押し出していく。そこが重要だと思います。安売り競争ではなく、高品質のものを高価格で売る、まさに「稼ぐ」という発想が必要なのです。

※Research and Developmentの略。 企業や研究機関などにおける「研究開発」のこと。プロダクトカンパニー(メーカー)においては「製造」「販売」にならぶ、事業を構成する三要素のひとつであり、研究開発活動によって創出された技術・ノウハウを経営資産化したものが知的資産(非技術を除く)である。

――「稼ぐ」仕組みをつくるためにはそこに関わる「人」の要素も大きいのではないでしょうか?

木下 おっしゃるとおりです。どの地域にも優秀な人材はいます。問題なのはそうした優秀な人材が、しかるべき地位や役割についていないことです。まちづくり事業に必要なのは学歴や経歴ではなく、その事業を進めていける能力です。周囲に惑わされることなくそういった人材を起用できるかどうか、行政のトップに求められるのはそこなのです。

――予定時間を大幅に上回る、聞き応えのあるトークショーになりました。本日はありがとうございました。

 

3懇親会まで大いに盛り上がりました!