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『f植物園の巣穴』 梨木 香歩

朝日新聞出版 ¥1,470

f植物園の巣穴

秋の夜長にふさわしい、しっとりと深みのある1冊
 忘れていること自体も忘れていたような遠い記憶が、何かの拍子でふっと浮かび上がるというような体験は、誰しもあるのではないでしょうか。 
 この作品の主人公である植物園の園丁も、ある日落ちてしまった椋の木の洞の中の異世界で、遠い記憶を次々と手繰り寄せていくのですが、冒頭から漂う暗くさ、ある種の不穏さは、さながら現代版「夢十夜」といった雰囲気で、先の読めない展開に、物語に没頭してつい夜更かししてしまうような1冊です。ここからは超個人的読書体験になってしまうのですが、一度「「夢十夜」みたい」と思ってしまうと、「千代」という名前の女性が複数出てくることや、園丁が洞の中で出会う正体不明の小僧など、色々なファクターが夏目漱石へのオマージュの様に思えてきて、小説を読むってなんて自由で楽しいのだろうと、改めて実感した1冊でした。(倉内)